大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟家庭裁判所 昭和42年(家)2786号 審判 1967年10月25日

申立人 原田キミ(仮名)

相手方 森正春(仮名)

事件本人 森寿恵(仮名) 昭和二八年一月三〇日生

事件本人 森順二(仮名) 昭和三一年四月一八日生

主文

1  未成年者森寿恵および未成年者森順二の親権者はいずれも相手方と定める。

2  相手方は申立人に対し離婚に伴う財産分与として金七万円を

(一)  右内金四万円はただちに

(二)  右内金三万円は分割して月額金二〇〇〇円宛を毎月末限り

それぞれ新潟家庭裁判所に寄託して支払え。

理由

1  申立人の申立

(一)  未成年者両名(少くともそのうち一人)の親権者は申立人と定める。

(二)  相手方は申立人に対し離婚に伴う財産分与として金五〇万円を支払え。

2  相手方の申立

(一)  未成年者両名の親権者は相手方と定める。

(二)  離婚に伴う財産分与の申立は却下する。

3  当裁判所の認定した事実関係

当裁判所の杉本シズ、森幸助、申立人ならびに相手方に対する各審問の結果、当裁判所調査官竹田昭の調査報告書、当裁判所昭和四二年(家イ)第二二七号離婚調停事件記録添附の戸籍謄本、調停調書、事件経過表、調査官竹田昭の調査報告書を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  相手方は昭和四二年七月二四日当裁判所に対し離婚の調停を申立てたところ、昭和四二年九月二二日、当事者間に相手方と申立人は離婚すること、親権者の指定および財産分与については審判を求めるとの合意に達したので、即日離婚についてのみ調停が成立し、且申立人において直ちに親権者指定および財産分与等の本審判申立をなしたものである。

(二)  〔離婚に至るまでの経緯〕

申立人と相手方は昭和二七年四月婚姻生活を始めた夫婦(同年八月二日届出)であり、昭和二八年一月三〇日長女寿恵が、昭和三一年四月一八日には長男順二がそれぞれ出生した。

相手方は婚姻前後を通じ鳶職として土建会社に勤務し、申立人は製紙会社の下請会社へ木材の皮むきの臨時雇や○○の行商などし、二人の子供の出産前後を除いて夫婦はほぼ当事者双方の共稼ぎで家族の生計を営んできた。婚姻後約一〇年間は多少の曲折を経ながらも概ね平和な家庭生活であつたが、昭和三八年一二月頃、偶々長女寿恵が相手方に対し、相手方が不在中、青木某という男性が訪ねてきた際、申立人が寝巻姿で右青木某と寝ているのをみた(右申立人の不貞行為は諸般の事情を総合し認め得る)と告げて以来、急速に夫婦仲が悪化し、相手方は屡々激昂の余り申立人に暴力を振うようになつた。申立人は右不貞行為を一度は認めたこともあつたが、再び否認し続け、剰え、相手方の暴行にひるまず反撃さえしたので、夫婦仲は収拾のつかない険悪なものとなつてしまい、申立人の親、兄弟などが間に入つて仲裁したが、申立人が、昭和三九年二月一日相手方や子供らのもとを立去つて以来、回復し難い破綻状態を呈するに至つた。

その後も人を介して両人は離婚について話し合いを進めたが、子供の親権者、監護者を誰にするかについて遂に意見がまとまらず、相手方から前記離婚の調停が申立られるに至つた。これより先、昭和四〇年一〇月頃相手方は同人の従兄弟である森幸助の勧めにより、松宮ヨシコを後妻として迎えいれ同棲するようになり、一方申立人は始期は不明であるが、現在徳田治郎なる男性と同棲している。

(三)  〔事件本人等の生活状況〕

事件本人である未成年者森寿恵は新潟市内の中学校に三年在学中であり、未成年者順二は新潟市内の小学校に五年在学中であり、いずれも相手方と同居している。事件本人等はいずれも両親の別居後一貫して相手方と同居し、順二については昭和三九年五月頃申立人方で一泊したことがあるが、翌日早速相手方のもとに戻り、再び申立人のもとへいくことを希望していない。長女寿恵は、自己が目撃した申立人の不貞行為から両親が別居するに至つたと考えており、申立人に対して不信の念を抱き、申立人との同居を望んでいない。さらに、二人の姉弟仲は良好で、互に別々になることをおそれている。

なお、事件本人等と松宮ヨシコとの関係にもさしたる問題はない。

(四)  〔申立人と相手方等の財産関係〕

申立人および相手方双方ともに婚姻当初もその後の婚姻生活中においてもさしたる特有財産はなく、また現在共有財産としてテレビ一台(約四万円位)とラジオ一台(約一万三、〇〇〇円)があるにすぎない。婚姻中は、両者の働きにより得た報酬を合算して生活費および子供等の養育費にあて、貯蓄の余裕は殆どなかつた。

現在申立人は○○の行商で生計を維持しており、月収は約二万五、〇〇〇円と一万五、〇〇〇円の間を上下している。同棲中の徳田治郎は新聞配達をしているが、生計維持上は各自独立と認められる。

一方、相手方は現在鳶職として月収約三万七、〇〇〇円であり、これ以外に資産はなく、内縁の松宮ヨシコの月収約一万円と合わせて親子四人の生計を維持している。

4  結論

(一)  親権者の指定

前記認定事実によると、長女寿恵は自己の目撃した母親である申立人の不貞行為に対して好感を抱いていないし、また母親との同居を希望しない旨言明している。一方、長男順二についても同人のこれまでの母親に対する疎隔的態度および現在の生活に対する親近感から推して母親との同居を希望していないと認められるし、同人が小学校五年生であることも考慮すると現在の生活関係を変更することは同人にとつてマイナスにはなつても、決してプラスにはならないと考えられる。加うるに、申立人側の現在の生活関係が、子供らの身上観護をはかるべき条件としては相手方におけるそれよりも劣悪であることに鑑みると、現状においては申立人の希望を容れるよりも、相手方の主張を認める方が子の福祉をはかるうえからも妥当であると認める。よつて、当事者間の子二人の親権者としてはいずれも相手方と定める。

(二)  財産分与

前記認定のとおり、当事者双方共みるべき資産なく、かつ両者間の共有財産としては金五万三、〇〇〇円相当のテレビ、ラジオ各一台があるだけである。また前示認定のように当事者夫婦の関係が破綻したのは主として申立人側の不貞行為によるのであり、且申立人は今後も青物の行商などにより独立して生計していく能力は十分あると認められる。しかし、夫婦の破綻原因には申立人に右のような責むべき点があるとはいうものの、結婚以来、申立人が相手方と共にさしたる楽しみを享けないままに営々と働きながら二人の子女を養育してきた努力は十分評価されなくてはならない。よつて以上の事実関係を総合したうえ、相手方は申立人に対し離婚に伴う財産分与として金七万円を、その内金四万円は即時に、残金三万円は分割して毎月末限り各金二、〇〇〇円宛をそれぞれ新潟家庭裁判所に寄託して支払うのが相当であると認める。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 山下薫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例